先日のGP静岡で行われたレガシー選手権。グランプリ本戦と同じ土曜日に5回戦、二日目に6回戦という昨今のレガシー需要の高まりを計算したボリューム。如何せんGP本戦中であり、総勢170名にしては少し回戦数が多すぎると囁かれた今大会は、最終戦はまさかのGP本戦よりも後に決着を迎えることとなる。そう、11回戦はあくまでスイスラウンド。そこから3回戦、シングルラウンドを控えているのであった。

 今ここに、一人のデュエリストがいる。およそ20歳過ぎには見えない外見と、爆アド。という謎の言葉を多用する彼のことを、静岡のマジックプレイヤーはこう呼ぶ。最強の「遅延プレイヤー」と。

 この観戦記事は、そんな彼の、奇跡の決勝ラウンドの戦いを追った内容になっている。筆者もこういった内容の、しかも人のプレイ内容を書くのは初めてなので、至らないところは是非ご容赦願いたい。また、公式の記事ではないので、カード名などは略式になったりしてることへの容赦も合わせてお願いする。

 「ペインター」という名前のデッキをご存知だろうか。テンペストの面白レアカード丸砥石と、シャドウムーアの絵描きの召使いの2枚を戦場に出すことで、ライブラリーの全てのカードが同じ色(絵描きの召使いの指定した色)になり、一度丸砥石を起動することで、相手のライブラリーを全て削り落とすというコンボデッキの名称なのだが、レガシーにおいてはそのコンボが使用可能だ。2枚コンボであったり、両方がアーティファクトであることから揃えやすい印象はあるのだが、エムラクールがいたり召使いが丸砥石の起動スタックで除去されたりするとコンボが決まらないため、使用者はあまりいない印象がある。今大会も、筆者が知る上では二人しか知らない。一人はそう、上記の「彼」である。(もうひとりも実は静岡勢である)

 彼は最初スタンプレイヤーだった。よく言われるレガシーの高額カードによる「敷居の高さ」に、参入などハナから考えていない一人の若きプレイヤーだった。そんな彼が奇しくも筆者の作成した一つのデッキに出会う。それが「ペインター」と呼ばれるこのデッキだった。彼はそれを作成者よりも楽しそうに、デッキに愛されるようにコンボを決めまくって言ったのだ。
「レガシーって、楽しいですね!」

 それがもう2年近く昔の話。まだ、ファイナルズという大会が存在した頃の話である。彼がその後、レガシーのデッキを作り始めることになったのは言うまでもない。


 前置きが長くなりすぎた。では、観戦記事に移っていこう。あ、プレイヤーの名前はshimizuである。(今更)


 決勝ラウンド1回戦 Vsエスパー石鍛冶(makishima)
 1ゲーム目
  相手の1ターン目、コジレックの審問をブレストでかわすところからゲーム開始。召使いと稲妻をトップに戻す。ここで思案が残っているのは不思議だった。相手も他に脅威がないハンドと知ると当然思案が墓地へ。土地を置いて召使い(指定青)を出すと相手の場に石鍛冶が着地。十手がハンドに加えられる。この指定青だが、以前shimizuと話すことがあり、相手にwillがあるときには青指定はまずい気がするのだがと言ったとき、メインの赤霊波や紅蓮波が腐るということで違う色指定は無いと解答された。この直後、トランスミュートアーティファクト(以下、トランス)を十手をコストにwillされるのだが・・。引いた思案でライオンの瞳のダイアモンドも戦場に加え、あとは丸砥石を待つばかり。ここで、相手が3マナ立たせてエンド、そこにドロートランス!? 流石ノリにのっている男は違う・・と思いきや、相手のヴェンディリオン3人衆により稲妻に変換されるw 3人衆は稲妻で落とすも、返しに再び石鍛冶をプレイされ青赤剣がハンドへ・・、お? ここは思わずニヤリ。相手が審問をフラッシュバックした瞬唱の魔道士に装備させようとしたところでshimizuが一言「これ、装備外れます」。青くなった本来無色の青赤剣は、自身が与えるプロテクション能力により永久に装備できなくなるのだ。そうして、エンドを告げたあとのトップが、待ちに待った丸砥石だった。

 『shimizu 1ー0 makishima』

 2ゲーム目
  1マリガン後、再び相手の先手の審問が。手札のブレストが1枚落とされる。2ターン目には翻弄する魔道士(指定丸砥石)が出てくる。ややマナフラ気味のshimizu。思案やブレストするも土地ばかり。相手が十手のついた魔道士で2回ほど攻撃すると、カードを片付け始めた。

 『shimizu 1ー1 makishima』

 3ゲーム目
  沸騰する小湖からのボルカで、溶接工とライオンの瞳を展開。手札には丸砥石があるため、勝利はかなり近そうだが・・。オパールのモックスから丸砥石を出そうとするがそこにはブレストからのwillが。ただ溶接工がいるため、カウンターは実質用を成さない。そこで、返しのターンで翻弄する魔道士(指定直観)を着地させる。プレイングは何一つ間違っていない。違うのは、shimizuのサイドテクだろうか。なぜか、直観はサイドにある、しかも2枚。shimizuはこのマッチ、これらをサイドインしていない。存在はするが、デッキには存在しないカードなのだ。返すターン、若干のマナトラブル気味なところにトランスをドロー。手札には血染めの月があるのだが、ボルカと裏切り者の都の場ではプレイをせずターンを返す。すると、makishimaの手札から出てきたのは仕組まれた爆薬・・。X=1で溶接工が飛ばされる。あとがなくなってきたshimizu。引いてきた教義会の座席を元にトランス。召使いが場に現れると、makishimaも2体目の魔道士(指定丸砥石)でコンボを阻止し、手札に温存していた十手を、前のターンにプレイした石鍛冶から場に出す。さらに思考囲いまで打ち、十手にカウンターが乗り、次で召使いを除去すればほぼ勝利確定!  ・・のはずだった。shimizuはデッキに愛されすぎていた。残された最後のドローは、魔道士に禁止され、勝利の絶対条件であるためのテンペストの他愛もないレアを場へ導く唯一のカード、トランスだったのだ。

 『shimizu 2ー1 makishima』


 あまりにも劇的、そして、デッキにこうも愛される男は他にいるのだろうか。shimizu初戦突破。


 いきなりだが、レガシーや時にスタンでも起こる現象をご存知だろうか。それは俗に「わからん殺し」と呼ばれる現象で、情報の溢れかえる現代では、ときにスタンですらヴァロルズをプレイされたプレイヤーが「そのカード、なんでしたっけ?」と思わず尋ねてしまう現象に近いものだ。デッキの内容が分からない。これは対戦前からの大きなアドバンテージなのであり、自分が何をされたのかわからない、というポルナレフと戦うディオのような優位な状況に立てるわけだ。次のゲームは、ある種マイナーな存在のこのデッキのアドバンテージがモロに活きた試合だった。

 
 決勝ラウンド2回戦 VsBUG(horie)
 1ゲーム目
  お互いゆっくりな立ち上がり。shimizuが2ターン目にメインにブレストを唱え溶接工を追加すると、返しのターンでhorieも断片無き工作員をキャスト。筆者は実はこの手のデッキは対戦したこともなく、工作員がどれほど強いのかははっきりわからない。確実に二つのアクションを起こせるのはなんとなく強そうだ、という印象。続唱でブレストをキャスト。shimizuは戻ってきたターンで古の墳墓を出し、召使いと独楽をプレイ。ゲームセットにリーチ。horieはそこに衰微を合わせ、古の墳墓を不毛で壊して待ったをかけてい・・・たはずだった。続くターンに溶接工の効果で召使いが場に戻ってくると、すでに場に出ていた丸砥石が起動されゲーム終了。horieの「あれ? (溶接工)の起動に赤マナいらんの??」という言葉がとても印象的だった。

 『shimizu 1ー0 horie』

 2ゲーム目
  horieが森の知恵、shimizuは独楽、オパールのモックスをプレイしていく立ち上がり。ブレストをプレイし、早くもshimizuの手札はコンボの2枚が。裏切り者の都から召使いをプレイ。ここで、horieが虎の子のヴェールのリリアナをプレイ。召使いをどかしてコンボを阻止しようとするが、そこはshimizuの赤霊波が。そう、青指定によりリリアナは青い呪文になっているのだ!しかしhorieも黙っていない。手札からレガシー環境最強の青いスペル、Force of willを手札を追放してプレイ!これが、これが解決されれば・・というhorieの願いむなしく、shimizuから放たれたのは、筆者もキッカーウルザの激怒を弾き返したことのある、方向転換という、これまたいぶし銀な一枚であった。

 『shimizu 2ー0 horie』


 実は2ゲーム目、ここでもペインターというやはりマイナーな存在が、相手のミスを誘っている。horieがwillのコストのために追放したカード、実はwillなのだ。手札に残っていた青いカードは確かにwillだけであったのだが・・・お気づきだろうか? そう、召使いの能力により、手札は見かけ上黒くても、土地であっても、全て青いカードになっているのだ。つまり、willのコストとして、タルモゴイフや土地ですら追加コストとして追放することが可能だったのだ! そうとは気づかずhorieは、実は2発打つことができたカウンターを1発しか打てずに敗北した。責める気概など毛頭ない。あの長丁場を戦い抜き、準決勝という舞台で戦う。しかも、大勢の人たちが見ている中でだ。それがどれほどのプレッシャーになったことか、見ている側の想像などなにも意味はなさない。ただ、何度か対戦したことはあった二人だったそうだが、まだまだ突き詰めていける部分はあるし、改善できるところもある。それが、マジックというこのゲームの楽しさであり辛さでもあり、何にも代え難い魅力ではないだろうか。


 さて、長いお付き合いありがとうございます。いよいよ決勝戦。筆者的には、ここまで書ききった時点で、すでに8割は作業終えた気分。え? なぜかって?

続きはwebで!!



・・・ということで続けます。すいません、こういうやりとり好きなんです(ウザいw)

 1ターンキル。漫画とか2次創作ものにはあまり無い展開だが、要するに先攻後攻を決めたら先攻がそのままゲームに勝つ。相手は座っているだけ。これはひどい。しかしマジックの歴史を紐解くと、そこにはそうしたゲームが少なからず存在した事実がある。それも野良試合ではなく、れっきとした公式試合で。レガシーは、この1ターンキルが数%というほんとにわずかな可能性ではあるが存在する。0にはできないしならない。それを魅力といえば魅力。理不尽と思えば理不尽。ANTというデッキも、1ターンキルの可能性を持つデッキの一つ。それが、決勝戦で待っていた。
 

 決勝ラウンド3回戦 VsANT(inamura)
  1ゲーム目
   ギタクシア派の調査で見たshimizuの手札にはwillが一枚。コンボはこのカードの有無が勝敗を本当に大きく分ける。無ければ、先ほど書いたように1ターン目に勝利が狙えるからだ。もちろん、ゲームが長引くことはコンボデッキにとっては厳しい戦いになる。早めに勝負を仕掛けたい。そのままinamuraは沼を置いてエンド。shimizuも思案を打ち、モックスをプレイしてターンを返す。続いてさらにギタクシア派の調査を打ちドローを進めるinamura。shimizuは召使いを置いてエンド。返しのターンで定業を打ち、暗黒の儀式を打って勝負に出る。堪らずshimizuはスタックブレストからのwill。トップが思わしくないshimizuは思案を打つも回答はない。返しでinamuraは強迫から2枚目の暗黒の儀式を打ちコンボ開始。このANTのデッキ名のAを担うむかつきへと繋げる。残りライフ14から、トップを計算してひたすら掘り進めていく。shimizuもただ見ている他ない。公開したカードの内容次第では、むかつき中にむかつきをめくってしまうアド死もあるため慎重に掘り進め・・・ライフは1。だが、そこにはそれだけあればよかったはずの冥府の教示者はなかった・・。

 『shimizu 1ー0 inamura』


 古くはネクロポーテンスのように、ライフをドローに変換する方法はやはり強い。強い反面、強すぎれば禁止されたりしてバランスがとられてきた。こうしたこともある。この結末も一つのマジック。

・・ANTはまだ死んでいない!!
 
  2ゲーム目
   ・・書く前に色々試してみたが、やはりこのゲームも今まで同様に書くほうがいいと結論づけた。なので、この書き出しだ。独りよがりで申し訳ない。ただ、それほど劇的にこのゲームの、レガシー選手権の決勝の幕は閉じられた。先手のinamuraが見たshimizuのハンドは、なんとまさかの、理論上は成立するがほぼありえない確率の「ペインター」の1キルハンドだったのだ!!! (古の墳墓、召使い、丸砥石、ライオンの瞳のダイアモンド、オパールモックスが揃うと完成)これにはさすがに周囲からもどよめきの声が上がる。inamuraも「緊急事態」と称するほどの出来事だ。冷静にドロースペルから強迫を放ち、手札のライオンの瞳のダイアモンドを落とす。が、続くshimizuのドローは2枚目の丸砥石! 古の墳墓→丸砥石×2→オパールのモックス→ゴブリンの溶接工というひどすぎる場を作り上げターンを返す。inamuraのラストターン、ブレストプレイからサイドのチェック、ライオンの瞳のダイアモンドを起動。そして・・・静かに静かにカードを片付け始めた。

 『shimizu 2ー0 inamura』


 「最後は、爆薬かバウンスを打つしかない。それでも、延命にしかならないけどね。」とinamuraは言っていた。確かに、負けないだけで勝ちへ確実につながるわけではない。それでも、最後の最後まで勝負を投げず、全力を持って対戦するその姿勢は、まさに、レガシー選手権準優勝者の態度にふさわしい素晴らしいものではないだろうか。最後の最後で大勢が見守る中、見事に1キルハンドを呼び寄せたshimizuのデッキ愛も素晴らしい。あの初手を確認したときは震えたよ。お二人共、14回戦という長丁場お疲れ様でした。



 本当に昔、一つのデッキに巡り合い、それがレガシーを初めるきっかけになり、今ここ、静岡という生まれ故郷でこれ以上ない成果を生み出したshimizu hiroki。奇しくも筆者と同じ名前であり、初対面のとき異常に怖がられたことも今では懐かしい。本当にお疲れ様&おめでとう。静岡のレガシーというまた一つの境地を広げてくれた功績を讃え、ここに記します。

 最後に、ここまで稚拙な文を読んでくださった方々、GP静岡という貴重な体験を共にできた人たちへの感謝と敬愛の気持ちを込めて締めとさせていただきます。

本当にありがとうございました。   平成25年12月25日

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